技術資料
ディップコートの基礎知識
引上速度と膜厚の関係性
ディップコーティングにおける引上速度と膜厚には以下の関係式が成り⽴ちます。
引上速度が速く、粘度が⾼い場合(厚膜となる場合)
引上速度が⾮常に遅く、粘度が低い場合(薄膜となる場合)
ここで、Cは係数(Newton流体では0.8)、Vは引上速度、ηは動粘度、ρは液粘度、γは液の表⾯張⼒とする。
※上式はウェット時の膜厚の理論値となります。
乾燥や周囲環境からの影響等により実際の膜厚は変化します。
⽬的とする膜厚と使⽤する液の密度から引上速度を求める場合は
式(1)より
同様に式(2)より
と求められます。
※実際には⽬的とする膜厚に対して、乾燥前のウェット状態の膜厚に換算してから各変数に代⼊する必要があります。
ディップコーティングの利点と⽋点
⼀般的にコーティングにおける薄膜を作成する際、ディップコーティングとスピンコーティングを⽐較されることが多いです。
結論:コーティングするワークとコート液の性質に合わせてコート方法を選択
生産目的の場合、ディップコーティングの方が欠点が少ない
洗浄効果による濡れ性変化
ディップコーティングにおいて塗布対象となるワークの濡れ性を向上させることは、あらゆる面で利点をもたらします。
濡れ性の評価には接触角計を用いてワーク表面の接触角と表面自由エネルギーを用いることが一般的です。
ここではコーティング前のWet洗浄とDry洗浄によって接触角と表面自由エネルギーがどう変化するか、ワークに対してどの洗浄方法が適しているかの比較をした結果を掲載します。
洗浄対象:タングステン合金 平板
●洗浄条件1
Wet洗浄
・アルカリ洗浄+超音波洗浄 5分 (50℃)
・市水すすぎ+超音波洗浄 3分
・市水リンス+超音波洗浄 3分
Oven乾燥
・80℃ 5分
Dry洗浄
・UVオゾン洗浄 (3分、5分)
●洗浄条件2
Wet洗浄
・メタノール洗浄+超音波洗浄 5分 (常温)
Oven乾燥
・80℃ 5分
Dry洗浄
・UVオゾン洗浄(3分、5分)
Wet洗浄条件1
●Wet洗浄による接触角の変化
精製水: 68.5°→66.8°
ジヨードメタン:42.8°→28.0°
●Wet洗浄による表面自由エネルギーの変化
全体(Total):43.2→48.8
分散(h)成分:32.9→39.9
極性(h): 10.3→ 8.9
●Wet洗浄条件1測定結果
Dry洗浄条件1
●Dry洗浄による接触角の変化
精製水: 66.8°→23.9°
ジヨードメタン:28.0°→18.9°
●Dry洗浄(UV洗浄)による表面自由エネルギーの変化
全体(Total):48.8→70.4
分散(d)成分:39.9→37.1
極性(h): 8.9→33.3
●Dry洗浄条件1測定結果
Wet洗浄条件2
●Wet洗浄による接触角の変化
精製水: 68.5°→37.6°
ジヨードメタン:42.8°→24.5°
●Wet洗浄による表面自由エネルギーの変化
全体(Total):43.2→63.5
分散(d)成分:32.9→36.7
極性(h): 10.3→26.8
●Wet洗浄条件2測定結果
Dry洗浄条件2
●Dry洗浄による接触角の変化
精製水: 37.6°→35.0°
ジヨードメタン:24.5°→30.8°
●Dry洗浄(UV洗浄)による表面自由エネルギーの変化
全体(Total):63.5→63.7
分散(d)成分:36.7→33.9
極性(h): 26.8→29.8
●Dry洗浄条件2測定結果
Wet&Dry洗浄条件1と洗浄条件2の変化比較
●洗浄条件別の接触角(精製水)の変化
洗浄条件1:68.5°→23.9°
洗浄条件2:68.5°→35.0°
●洗浄条件別の表面自由エネルギー(全体)の変化
洗浄条件1:43.2→70.4
洗浄条件2:43.2→63.7
●Wet洗浄条件 測定結果比較
結論:接触角の減少が大きく、表面自由エネルギーが大きくなる洗浄条件1の方が
このワークの洗浄方法に適している。
このように複数の洗浄方法を試して
ワークに合わせた最適な洗浄方法を見つけることがコーティングでは重要となります。
UV洗浄/改質のメカニズム
洗浄と改質のメカニズムは異なりますが、どちらも親⽔化、ぬれ性改善、接着性向上などの効果は同じです。
各種素材表⾯の特性によって、洗浄と改質の作⽤は異なります。
UV洗浄のメカニズム
⼤気中の酸素O2へ紫外線波⻑185nmを照射することでオゾンO3が⽣成
オゾンO3に紫外線波⻑254nmを照射することで、オゾンO3が分解されて励起状態の活性酸素O–が⽣成
同時にワーク表⾯上の分⼦結合を切断
活性酸素O–は強⼒な酸化⼒を持っており、紫外線のエネルギーによって切断された有機汚染質(C)と化学的に結合し、⼆酸化炭素(CO2)や⽔(H2O)などの揮発性物質に分解反応させて除去します。
UV改質のメカニズム
①⼤気中の酸素O2へ紫外線波⻑185nmを照射することでオゾンO3が⽣成
②オゾンO3に紫外線波⻑254nmを照射することで、オゾンO3が分解されて励起状態の活性酸素O–が⽣成
同時にワーク表⾯上の分⼦結合を切断
③活性酸素O–はワーク表⾯の分⼦鎖を切断された分⼦と反応し、官能基OH(⽔酸基)、COOH(カルボキシル基)等をワーク表⾯に形成
これら官能基は親⽔性が⾼く、コーティング剤との相性が良い→接着性が⾶躍的に改善・向上
プラズマ洗浄/改質のメカニズム
プラズマとは
プラズマとは、固体・液体・気体に次ぐ第4の物質の状態のこと。
気体の状態からエネルギーを加えると気体の分⼦が電離して原⼦になり原⼦核の周りを回っていた電⼦が離れプラスのイオンとマイナスの電⼦に分かれます。
このプラスイオン原⼦の荷電粒⼦を含む気体がプラズマを指します。
プラズマ洗浄/改質のメカニズム
電極に挟まれた空間を真空引きした後に放電することで、その空間内の酸素分⼦O2は解離して原⼦Oとなる。
そこから更に放電することで、酸素原⼦Oは電離して正イオンO–と電⼦e+が出る。
この正イオンO–と電⼦e+がワーク表⾯の分⼦の化学結合を切断し、親⽔性の官能基OH(⽔酸基)・CO(カルボニル基)・COOH(カルボキシル基)等がワーク表⾯上に形成される。
この官能基がワークと液との密着性を⾶躍的に改善・向上させる。
蒸発器の原理及び⽤途
蒸発器の原理
装置内部に複数の蒸発棚(トレー)が重なって収められており、洗浄液が上のトレーから順に下のトレーに流れていき、装置内の貯蔵槽に戻り、洗浄液をポンプで上のトレーに送る構造となっています。
蒸発器下部に送⾵機を内蔵しており、トレーとの間に⾵を送ることで蒸発を促進させています。
蒸発器の⽤途
〜蒸発器の運⽤例〜
①洗浄装置の洗浄槽を凝縮しながら環流
→効果:無排⽔化と洗剤消耗量の削減
②廃⽔の凝縮
→効果:廃⽔の減容化・産廃費⽤の削減
蒸発器の導⼊例
例) ⼀般的な⽔系システム
第1槽に投⼊した洗浄物から洗剤をすすぐため第2槽へ投⼊、仕上げ洗浄で第3槽へ投⼊
→問題点
洗剤が第2槽に持ち出されることで、第2槽の洗剤濃度上昇を防ぐために市⽔補充し余剰分を廃液することが必要
第1槽の洗剤が減少し洗剤の補給が必要
例) 蒸発器導⼊による無排⽔化としたシステム
第2槽への市⽔補充により溢れ出た分を第1槽へ給⽔
第1槽の洗剤濃度が低下した分を蒸発器で蒸発させ濃度を維持
→結果
洗剤供給が不要となり洗剤消費量の低減
第2槽からの排⽔が不要
蒸発器の実績例
洗浄システム例:ゴム製品の洗浄装置
第1槽:⽔系洗浄剤による⽔中噴流洗浄
第2槽:エアブローによる液切り
第3槽:市⽔噴流によるプレリンス
第4槽:純⽔噴流による仕上げリンス
第5槽:純⽔噴流による仕上げリンス
第1槽の⽔系洗浄剤を蒸発濃縮させることで後槽のすすぎ⽔の供給を得ている
蒸発器を導⼊した洗浄装置の配管系統図
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